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Fit to Standardでパッケージ導入を進めるには|カスタマイズを減らす判断基準

ERPや業務パッケージを導入するとき、自社の業務に合わせてシステムを作り込むのではなく、システムの標準機能に業務を合わせていく進め方を、Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)と呼びます。クラウドERPの普及とともに、導入方針として掲げる企業が増えてきました。

Fit to Standardが重視されるのは、パッケージのカスタマイズが多いほど、導入時の費用だけでなく、バージョンアップのたびの検証や改修の負担が重くなるためです。とはいえ、「標準に合わせる」と決めただけでは、現場から「この業務は標準では回らない」という声が次々に出てきて、結局は個別の作り込みが積み上がっていくことも珍しくありません。

うまく進めるには、標準に合わせる業務と、合わせない業務を分ける基準を、導入の前に決めておく必要があります。何でも標準に寄せるのでも、何でもカスタマイズで埋めるのでもなく、どこに差をつける価値があるかを見極める作業です。

この記事では、Fit to Standardの考え方と用語の出どころ、従来のフィット&ギャップとの違い、導入の進め方、パッケージのカスタマイズを減らす判断基準、標準に合わない業務の扱い方を、発注側の立場から整理します。

Fit to Standardの考え方と用語の出どころ

Fit to Standardの考え方と用語の出どころ

Fit to Standardは、パッケージが標準で備える業務の流れや機能を出発点にして、自社の業務をそこに合わせられるかを確かめていく考え方です。用語としては、ERP大手のSAPが導入方法論「SAP Activate」の中で使っているものが広く知られています。SAPの公式の学習コンテンツでは、Explore(探索)フェーズの主な目的を、Fit-to-Standard分析によってプロジェクト範囲の標準機能を検証し、業務要件を満たせることを確認することだと説明しています。

SAPの説明によると、Fit-to-Standardのワークショップでは、標準の機能やベストプラクティスを顧客と一緒に確認し、標準との差分(デルタ要件)と必要な設定を洗い出します。洗い出した差分はプロダクトオーナーが確認し、優先順位をつけたバックログとして、その後の実装フェーズで扱われます。つまり、差分が出ることを否定する考え方ではなく、差分を一つずつ判断の対象にする考え方だといえます。

日本では、この言葉がSAP製品以外のERPや業務パッケージ、クラウドサービスの導入でも、「標準機能に業務を合わせる」という一般的な方針の意味で使われるようになっています。製品によって進め方の細部は違いますが、核にある考え方は共通しています。

観点 Fit to Standardでの考え方
出発点 パッケージの標準の業務の流れと機能
確認すること 自社の業務をその流れで回せるか、回せない部分はどこか
差分の扱い 一つずつ必要性を判断し、業務の変更、設定、外部での拡張、カスタマイズのどれで対応するかを決める
目指す状態 パッケージ本体への作り込みを最小限にし、アップデートを受けやすい状態を保つ

参考:Explore Phase Overview(Discovering SAP Activate – Agile Project Delivery)/SAP

従来のフィット&ギャップとどう違うか

従来のフィット&ギャップとどう違うか

パッケージ導入では以前から、フィット&ギャップ分析という手法が使われてきました。自社の業務要件を一覧にし、パッケージの機能と照らし合わせて、合う部分(フィット)と合わない部分(ギャップ)を洗い出すものです。Fit to Standardとの違いは、どちらを基準に置くかにあります。

比較項目 従来のフィット&ギャップ Fit to Standard
基準 自社の現行業務の要件 パッケージの標準の業務の流れ
進め方 現行業務の要件を書き出し、機能と照合する 標準の流れを実際に動かして見せ、自社で回せるかを確かめる
ギャップの扱い カスタマイズやアドオンで埋める前提になりやすい まず業務側を変えられないかを検討する
起きやすい結果 現行業務を再現するための作り込みが増える 業務の見直しが伴い、現場の合意形成が課題になる

従来のやり方では、現行業務を基準にするため、長年の慣習や担当者ごとのやり方まで要件として書き出されがちです。その結果、パッケージを入れたのに中身は旧システムの再現になり、パッケージを選んだ意味が薄れてしまうことがあります。

一方、Fit to Standardでは業務を変えることが前提になるため、技術の問題よりも、現場の納得と経営の判断が問題になります。「なぜこれまでのやり方を変えなければならないのか」に答えられないまま進めると、導入後に現場がExcelでの手作業に戻ってしまい、システムの外に業務が流れていくことになります。

Fit to Standardでパッケージ導入を進める手順

Fit to Standardでパッケージ導入を進める手順

Fit to Standardの進め方は製品や導入支援会社によって違いますが、発注側から見た流れはおおむね次のとおりです。

段階 やること 発注側が担うこと
1. 方針の合意 標準に合わせる原則と、例外を認める条件を決める 経営層が原則を明言し、例外の判断者を決める
2. 製品の選定 自社の業種や規模に近い標準の流れを持つ製品を選ぶ 業務の特徴を伝え、標準の流れを実際に見せてもらう
3. 標準の流れの確認 試用環境で標準の業務の流れを動かし、自社の業務で回せるかを確かめる 現場の担当者が参加し、回せない場面を具体的に挙げる
4. 差分の判断 回せない部分を一つずつ、対応方法と優先順位を決める 判断基準に照らして採否を決める
5. 設定と拡張 設定値を決め、必要な拡張や連携を作る 設定の確認と、業務手順書の作成
6. 業務の切り替え 新しい業務の流れで教育し、運用を始める 新しい手順の定着と、旧来のやり方の廃止

ポイントは、第1段階の方針の合意を、製品選定の前に済ませておくことです。導入が始まってから「標準に合わせる」と言い出しても、すでに現場は現行業務を前提に要望を出しており、議論が後戻りします。また、第3段階で現場の担当者が実際に画面を触ることも欠かせません。資料の説明だけで「できそうだ」と判断すると、運用の細部で回らない場面が後から見つかります。

製品の選定も、Fit to Standardの成否に大きく関わります。自社の業種や規模と標準の流れがかけ離れた製品を選ぶと、差分が多すぎて、標準に合わせる方針そのものが成り立ちません。選定の段階で、自社に近い業種での標準の業務シナリオがあるかを確認しておきましょう。

パッケージのカスタマイズを減らす判断基準

パッケージのカスタマイズを減らす判断基準

標準との差分が見つかったとき、すべてを業務側で吸収することはできません。かといって、現場の要望をそのままカスタマイズで受けると、Fit to Standardの意味がなくなります。差分を判断するときは、次の問いを順に当てはめると整理しやすくなります。

  • その業務のやり方は、顧客や取引先から見た価値や、自社の競争力に直結しているか
  • 法令や取引先との契約で、そのやり方が求められているか
  • やり方を変えた場合、誰にどれだけの負担や損失が出るか
  • パッケージの設定やオプション、外部のツールで対応できないか
  • カスタマイズした場合、アップデートのたびに誰が検証と改修を担うか

最初の2つの問いのどちらにも当てはまらない差分は、原則として業務側を標準に合わせる候補になります。「昔からこうしている」「担当者が慣れている」という理由だけでは、カスタマイズの理由としては弱いと考えてよいでしょう。逆に、自社の強みに直結する業務や、法令・契約で求められる業務は、標準に合わせることで失うものが大きいため、対応を検討する価値があります。

判断の結果は、次のような区分で整理しておくと、後から見直しやすくなります。

区分 当てはまる差分の例 対応
業務を標準に合わせる 帳票の様式、承認の段階数、社内向けの集計の切り口 業務手順を変え、現場に理由を説明する
設定やオプションで対応する 項目の追加、権限の分け方、標準で用意された選択肢の範囲 パッケージの設定で対応し、設定内容を記録する
パッケージの外で補う 独自の見積もり計算、取引先ごとの特殊なデータ連携 外部のツールや別システムで作り、パッケージとはデータでつなぐ
カスタマイズする 自社の強みに直結し、外で補うと業務が分断される処理 範囲を限定して作り、アップデート時の検証担当を決める

カスタマイズを検討する差分については、導入時の開発費だけでなく、その後の費用も見積もりに含めてもらいましょう。パッケージのアップデートのたびに作り込み部分の動作を確認し、必要なら直す作業が発生します。導入会社には、カスタマイズ1件ごとに、アップデート時の確認と改修の目安を示してもらうと、業務を変える場合との比較がしやすくなります。

このうち「パッケージの外で補う」という選択肢は、見落とされがちですが重要です。SAPも、S/4HANAの拡張について、本体をできるだけ標準に近い状態に保つ「クリーンコア」という考え方を示し、ERPの中で行う拡張と、別の基盤で本体から切り離して作る拡張(サイドバイサイド)を選択肢として挙げています。本体に手を入れず、独自の処理を外に置いてデータでつなぐ設計にしておけば、パッケージのアップデートの影響を受けにくくなります。

参考:How to Extend SAP S/4HANA Cloud the Right Way/SAP News Center

標準に合わない業務をどう扱うか

標準に合わない業務をどう扱うか

判断基準を決めても、現場からの反発がなくなるわけではありません。標準に合わない業務を扱うときに起きやすい問題と、その備えを整理しておきます。

最も多いのは、業務を標準に合わせると決めたのに、現場が新しい手順に移らず、Excelや紙での手作業を並行して続けてしまうケースです。システムの外に業務が残ると、データが二重になり、パッケージを入れた効果が出ません。これを防ぐには、業務を変える理由を現場に説明するだけでなく、旧来のやり方を廃止する時期を決めて、決裁者が明言することが必要です。

次に多いのが、例外の判断が積み重なって、結果的にカスタマイズが増えていくケースです。一つひとつの例外はもっともらしく見えても、積み上がると本体への作り込みが多いシステムになります。差分の判断は担当者ごとにせず、判断者を一人か少人数の会議体に絞り、判断の記録を残しておくと、基準のぶれを抑えられます。

また、Fit to Standardが合わない場面もあることは押さえておくべきです。次のような場合は、パッケージに業務を合わせる方針そのものを見直したほうがよいかもしれません。

状況 考えられる対応
差分の多くが、自社の強みに直結する業務に集中している その業務はパッケージの外で作り、パッケージは会計など標準的な領域に絞る
業種や規模に合う標準の流れを持つ製品が見つからない 製品の選び直しや、対象業務を分けての導入を検討する
業務を変える意思決定を、経営層がすぐには下せない 業務の見直しを先に進め、導入時期をずらす

Fit to Standardは万能の方針ではなく、標準的な業務を標準的な道具で回すための考え方です。自社の独自性が業務のどこにあるかを把握していれば、標準に合わせる部分と差をつける部分を、迷わずに分けられるようになります。

まとめ

まとめ

Fit to Standardは、ERPやパッケージの標準の業務の流れを出発点にして、自社の業務を合わせられるかを確かめ、差分を一つずつ判断していく進め方です。カスタマイズを減らせば、導入費用だけでなく、アップデートのたびの検証や改修の負担も軽くなります。

カスタマイズを減らすには、差分を「業務を合わせる」「設定で対応する」「パッケージの外で補う」「カスタマイズする」に分け、自社の強みや法令・契約に直結するかを基準に判断します。自社の状況によって、最初にやることは変わります。

状況 最初にやること
パッケージ導入を検討し始めた 標準に合わせる原則と例外の条件を、経営層と合意する
製品を比較している 自社に近い業種の標準の業務シナリオを、試用環境で動かしてもらう
導入中で差分が増えている 差分の判断者を絞り、判断基準と記録の様式を決め直す
導入後にカスタマイズが多い アップデートの影響を受ける作り込みを洗い出し、外に出せるものを検討する

明日はまず、自社の業務の中で「顧客から見て他社と違う」と言える部分がどこかを、経営層と現場で書き出してみてください。そこ以外は標準に合わせる候補だと考えると、議論の出発点がはっきりします。